物流構造の変革に伴う相模原市の先進的物流システムのあり方

提  言

21世紀に向けて、産業の構造改革が進展する中で、産業の基盤となる物流システムの変革が大きな課題となっている。相模原商工会議所都市産業研究会および交通運輸業部会では、平成11年8月から平成12年3月まで、「物流構造の変革に伴う相模原市の先進的物流システムのあり方」について研究会を実施した。その結果、国の施策である「地域間物流システム」を相模原市内に誘致することが、21世紀の相模原市内の産業の創出および産業の活性化を図るために重要であるとの認識に基づき、その誘致を推進して頂きたく提言する。

1.背景

世界的な情報化による変革は、政治、経済、社会生活などあらゆる分野に波及し、これまでの社会構造についても改革と対応が迫られている。国内の社会的な構造の変化は、高齢化社会、少子化社会、教育の再構成、財政の切迫および行政効率の向上を図る地方分権化など、様々な課題、問題への対応と変革が迫られている。

世界的な課題や問題、国内的な課題、問題がそのまま地方の行政や産業経済社会に反映する。すなわちグローバリゼーション化が今日の構造改革の特徴である。国際的にも国内的にも21世紀へ向けた構造改革が進展している中で、相模原市の産業構造に目を向ければ、新しい構造改革の途上にあると言える。新しい構造改革は、情報革命(IT:Information Technology)を基に大きなシステムの協業体制への変革が形成されなければならないが、行政と産業界の連携システムによる協業体制への変革が形成されていないことが壁となっている。このため相模原市内の産業界における10年後、20年後の産業構造のあるべき姿に向けたグランドデザインとその目標に向けた活動と投資を行う必要があるとの認識に至った。

このような観点から商工会議所交通運輸業部会においては、平成元年より首都圏中央連絡道(計画線)の相模原インターチェンジ周辺に集団化事業を行うべく、市内運送業者約200社のうち74社をもって、「相模原流通団地協同組合設立準備会」を設立し、調査研究を行い「相模原貨物自動車等集団化調査研究報告書」および「相模原流通団地事業基本計画調査報告書」の成果を基に共同化事業「相模原輸送センター協同組合」を開設し活動を行ってきた。

その後、国においても都市圏の物流効率化、交通混雑の緩和、環境問題への対応として、サテライト型物流拠点の構想に着手し物流の近代化が進められ、相模原市はその調査モデル地域に指定された。産業構造改革が進展するなかで、産業の基盤となる物流システムの近代化が大きな課題となり、平成9年4月4日に「総合物流施策大綱」(付録2:総合物流施策大綱;平成9年4月4日)が閣議決定され今日に至っている。

相模原市は、平成11年4月にさがみはら産業振興ビジョン推進協議会の中に物流分科会を設置し、平成11年11月1日にその検討結果の報告書が発表された。この報告書の主眼は都市内物流の物流効率化を目指し、地域産業の活性化および市民の暮らし・環境の共存を図る観点から検討された。

以上のように、相模原市における物流の近代化には、長年にわたって産業界および行政の検討が継続されている。

2.物流研究会の目的

相模原商工会議所では、地域産業の活性化の観点から物流の近代化の調査研究を平成元年から今日に至るまで研究を行っている。産業構造の変革の一環として、国は「総合物流施策大綱」の施策を推進しているが、かねてから調査研究を継続していた相模原商工会議所の指し示す方向が正しかったことと考える。  

相模原商工会議所では、物流の効率化および近代化を進めることにより地域産業の活性化および市民の暮らし・環境の街づくりにも寄与する観点から、平成11年4月に閣議決定された「総合物流施策大綱」における「地域間物流拠点」(注1)の構築を図ることを目的として、都市産業研究会および交通運輸業部会で研究会を発足した。

(注1) 付録2に示した資料による物流拠点は、①国際物流拠点 ②地域間物流拠点 ③都市内物流拠点の3つの拠点で整理されている。「地域間物流拠点」は全国を地域ブロック化し国際物流と都市内物流の双方向性を担う物流拠点と位置付ける。

3.地域間物流拠点構築の必要性

相模原市の地勢的関係を考慮すると、国の施策である「総合物流システム」の地域間物流システムを相模原市に構築することは、国の総合物流大綱の趣旨にも寄与し、相模原市にとっては、新たな産業創出と同時に、住工混在の解消と交通渋滞のない街づくりにも寄与する。また、「さがみはら産業振興ビジョン推進協議会」が進めている物流分科会の検討と合わせて、連携したシステム構築を図ることにより、物流の高能率・効率化の効果は大きい。

4.地域間物流システムの規模

国の施策である「総合物流システム」の地域間物流システムは、全国規模の地域間物流システムと連携した機能と規模でなければならない。とりわけ、首都圏を抱えた地域間物流システムの拠点でなければならない。加えて、国際港湾・空港を後背地に控えた国際的な地域間物流システム拠点としての役割も果たすシステム規模となる。(付録1:「物流構造の変革に伴う相模原市の先進的物流システムのあり方」中間報告;平成11年11月)このような観点から、相模原市が目指す地域間物流システムは環境面を考慮するとともに、モーダルシフト化を図り、先進的なシステムを構築する。

(1)物流情報システム

21世紀型の地域間物流システムは、統合型情報ネットワーク機能が中核的存在となる規模で、モデル的には航空機の管制システム型の情報ネットワークシステム規模を構築する。

(2)地域間物流拠点システム

国際競争力および物流コストの低減を目指し、物流速度の向上を図るため、可能な限り自動ロボットシステム化を図る拠点の設備規模を構築する。

(3)管理運営システム

物流速度の向上は管理、運営システムの連携が必要であり、そのため、24時間の税関手続き管理、拠点システムの24時間稼動など管理運営システムの24時間体制規模の構築。

(4)震災物資、保税倉庫システム

災害などリスク管理の物資、国際物流の保税倉庫など首都圏機能の物流補給システムとして機能する規模の構築。

(5)統合的物流システム

後背地の国際物流拠点である横浜港、羽田空港からの地域間物流への中継機能、地域間から都市内物流への中継機能を統合的に行う先進的なマルチモーダルシフト化を図ったシステムを構築する。また、高能率的な情報システムと連携して、交通渋滞および都市環境を考慮したシステムの形成。

5.目的の意義

    相模原市に「地域間物流システム」を構築する意義を以下に示す。

(1)地勢的な意義

わが国の技術立国を目指す産業構造は引き続き継承される。相模原市は関東圏の産業集積地の一翼を担っており、関東圏の西部に位置し21世紀型産業を擁する広域多摩圏に属している。これら地域の産業製品の輸出入港湾である横浜港および羽田空港の後背地としての立地を生かし、地域間物流システムの拠点として統合的に形成されることが、西関東圏の産業の中核としての役割を担うものと考える。

(2)交通の要諦としての意義

相模原市は、東名高速道路を幹線として、名古屋、近畿圏の産業および物流拠点の幹線道路の入り口に位置するとともに、中央自動車道路を幹線とした山梨、茅野、松本、長野の産業集積地への入り口にも位置している。これらの主要幹線道路と連絡する首都圏中央連絡道(計画線)など首都圏の各種連絡道路と接続され、道路交通上の要諦に位置する立地環境は、地域間物流拠点の高能率化に果たす役割が大きいものと考える。

(3)産業資源の活用の意義

相模原市は人口60万人を擁する産業都市の一面を有している。市内の産業界は、電気・電子機械システム産業の三菱重工業等、情報システム産業のNECおよび三菱電機、田村電気等、化学、ガラス、輸送機器、建設、運輸など多くの業種が集積し、広域多摩圏における産業集積地の重要な一翼を担っている。地域間物流拠点の構築には、これら各種の産業界専門業種の連携を必要とし、相模原市に立地する産業界はこれらの専門業種を擁していて、その産業界資源の活用は産業界の活性化と新たな技術開発、雇用の増大を伴い、地域産業への貢献は極めて大きなものと考える。

(4)市内街づくりへの意義

相模原市は、人口60万人を擁し、全国的にも有数な人口集積地域である。また、町田市と連携した業務核都市として、100万人都市化がやがて形成され、新たな街づくりも必要となる。相模原市内の産業立地は住宅と混在した形態がまだ残り、それらが騒音、交通渋滞など様々な環境問題を生み出している。相模原市の街づくりの観点から、21世紀に向けた産業と住環境の再構成を行うことで、良好な地域環境が形成される。

(5)都市内物流システムとの連携の意義

相模原市は、かねてから「都市内物流拠点」を検討している。物流システムを高能率化することを考えると、相模原市において、「地域間物流拠点」と並存することでより高能率な物流システムが形成されることになり、物流コスト、輸送効率および環境面の観点から意義があるものと考える。

(6)防災拠点の観点からの意義

1)地震に強い相模原市

相模原市は、過去において関東大震災時においても地震の被害は少なく、また、今日、伊豆沖の地震多発地帯に近いにも拘わらず、地震の被害は皆無に等しい。このような特性は、相模原市の地盤形成によるところが大きく、相模原市は厚い関東ローム層上に形成され、活断層もなく、ローム地盤が地震に強いと指摘されている。

2)首都圏の西側地域からの物資集積拠点

地震による阪神淡路大震災は、様々な社会基盤および危機管理の反省要素を促した。とりわけ、物資の輸送と集積拠点に係わる物流システムは震災時および震災後も大きく尾を引いたシステムであった。そこでは、地域間物流拠点システムがないことが大きな課題となった。このような観点から、首都圏の西部に位置する相模原市は、中部・近畿圏とその後背地および甲信越圏とその後背地の入り口に位置し、ここに地域間物流拠点を形成することにより、リスク管理上の観点からも意義あるものと考える。

6.効果

国の施策である「総合物流大綱」を受けて相模原市が地域間物流拠点を構築することによる効果は、以下のように考えられる。

(1)21世紀型の新しい地域産業の創出

相模原市の産業は、21世紀型の新しい産業構造に変革する必要がある。21世紀型の新しい産業は、先進的な情報システムを骨幹とした高能率システム商品で、国際競争力の強い産業製品およびサービスを提供するものと位置付けられる。地域間物流拠点は、この2つの要素を包含したシステムであり、相模原市の新たな産業創出は他の産業への波及効果も大きいものと予測される。

(2)快適な住環境および環境の構築

今日の相模原市は、住宅と産業の混在した状況にある。その第1の課題は、生活道路と産業道路が共有されているために交通渋滞を起こし、環境の悪化を招いている。交通渋滞を解消し、良好で安全な住環境の回復を意図して、住宅区域から産業立地を取り除くため、関連産業界を地域間物流拠点近傍に集積し、産業道路を構築する産業立地の再構成を行うことにより、交通渋滞の解消と輸送効率の向上を図る効果が期待される。

(3)システムの構築が及ぼす地域産業の活性化

地域間物流拠点を形成するために、電気・電子機器システム産業、情報通信システム産業、輸送機器産業、制御機器産業、運輸業、建設業など幅広い技術を必要とする。言い換えれば、幅広い産業が参入してこそ地域間物流拠点のシステムが構築されるため、各種の地域産業の活性化が考えられる。

物流システムの「情報の流れ」を航空管制機能に類似した機能として捉えると、

  1. ① 国際物流拠点と地域間物流拠点間のネットワーク形成
  2. ② 地域間物流拠点間のネットワーク形成
  3. ③ 地域間物流拠点と都市内物流拠点間のネットワーク形成
  4. ④ 地域間物流拠点と道路交通情報、貨物輸送車両との情報ネットワーク

形成情報システムのソフトウェアと情報機器の産業界への新たな産業創出がある。「物の流れ」を空港の貨物システム機能をモデルとして見ると、

  • ① 運輸産業および拠点における荷別けロボット制御システムの構築
  • ② 拠点設備の24時間運用とメンテナンスのサービス産業の形成
  • ③ 拠点内での貨物梱包サービス産業の創出と形成
  • ④ 拠点内での産業廃棄物の処理システムの構築

管理運営面から捉えると、

  • ① 道路、建設等の基盤整備の構築
  • ② 手続き事務などのサービス業の創出
  • ③ 拠点就業者のための各種サービスの構築

地域間物流拠点の形成は相模原市の産業界の幅広い産業活性化の効果が期待される。

(4)雇用の増大

地域間物流拠点の構築は、関わる業種の裾野が広く、技術的にも頂きの高い産業システムであり、市内の産業界の雇用の増大と新たな産業の創出およびその波及効果が大きいものと期待される。

(5)地域間物流システムの高能率化による国際競争力の強化

高能率化による物流コストの低減は、産業製品のコスト低減にも寄与することは明らかである。加えて、都市内物流システムと連携したシステム構成が図られれば、その効果は一層顕著に表れるものと期待される。

7.検討課題

「地域間物流拠点」を構築する上での課題を以下に示す。

(1)地域間物流拠点の相模原市への誘致の推進

相模原市は、首都圏中央連絡道(計画線)の建設に伴い、「地域間物流拠点」の誘致を国に積極的に働きかけるとともに、産業界と連携して様々な課題、問題を検討する施策を講じる必要がある。相模原市は、現在、「地域間物流拠点」の候補地として誘致の意思表示をしていない。市は、国および県に対して誘致の推進を図る活動を産業界と連携して行うことが重要である。

(2)「地域間物流拠点」のグランドデザインの検討

相模原市と市内の産業界は「地域間物流拠点」の構想の検討を行う。

1)用地の確保の検討

      国、県、相模原市および産業界が連携して、地域間物流拠点の誘致の前提条件となる用地の検討を行う。

2)高速道路およびバイパスなど道路交通の検討

     国、県および相模原市の行政資源による検討を行う。

3)主体的実施組織の検討

     相模原市および市内産業界等の連携による検討を行う。

(3)住宅、産業界立地の再構成と交通、道路等のアセスメントの検討

   相模原市および市内産業界との街づくり構想および再構成について検討を行う。

(4)情報システムの標準化

   貨物など物流情報の統合的な情報システムの標準化の検討を国および産業界が連携して行う。

本報告は平成11年11月の中間報告と付録から構成されている。本報告の内容は、国の施策である「総合物流大綱」の中で示されている「地域間物流拠点」に応じた相模原市の産業界の研究会報告である。「地域間物流拠点」は物流の要となる重要な拠点構築である。その特徴は、地域間との交通の要諦であること。すなわち立地要件、構築する上での産業集積地、「都市内物流拠点」へのアクセス容易性など。また、都市圏の環境として交通渋滞の解消など、21世紀社会へのまちづくりの変革をも範疇に考慮した、先進的なシステムや設備が必要とされている。「地域間物流拠点」を様々な角度から検討すると、相模原市は物流の効率化、環境を考慮した上でも立地環境として、好適地と言える。そのためには、首都圏中央連絡自動車道の建設計画と密接に関わり、その建設の推進が緊要な要件である。一方、相模原市の産業界においても先進的な「地域間物流拠点」は、21世紀へ向けた産業構造改革の重要な始まりの一つでもある。産業界の長期構想のもとに継続して、本課題の検討と活動をする必要があるものと考える。

中間報告 (付録1)

はじめに

現在、相模原市の人口は約60万人、世帯数約23万世帯、10年後には70万人の人口と推算されている。大都市へ移行する21世紀の相模原市は、住み良いまちづくりと活力ある産業振興に支えられ、市民生活と産業が一体となった調和ある都市を形成することが目標であると考える。そのためには、これまで膨張と発展を続けたことにより、市民生活と産業が混在してきたものを整備し、居住区に分離する再構成を行ない、市民生活の住環境を改善することが緊要な課題である。同時に、市内の産業界は、産業構造改革に向けて多くの課題を有していることも認識している。21世紀に向けてこうした環境整備を図ることは、相模原市の市民に対しての責務と考える。そのためには、21世紀を見据えた産業構造の変革を果たすインセンティブを行政と産業界が連携して創出する必要がある。

商工会議所都市産業研究会および交通運輸業部会は、国が推進している総合物流システム拠点の構築を相模原市に誘致することが産業界の構造改革へのインセンティブとして大きな役割を持つものと期待している。

本内容は、総合物流システムと相模原市の産業振興の視点で相模原市の地勢的環境と産業立地資源を活かすとの観点から総合物流システムを捉えて検討を行い、その結果を中間的にまとめたものである。

相模原商工会議所都市産業研究会、交通運輸業部会

中間報告の要約

都市産業研究会、交通運輸業部会で総合物流システムの検討を進めた結果、これまでに以下のコンセンサスを得たのでそれを要約する。

(1) 相模原市の産業の発展に伴い、市民生活と産業とが混在化した社会環境が、生活環境に悪影響を及ぼしている。とりわけ、交通問題と係わりのある物流産業においてその傾向が顕在化していることに鑑み、再配置を行ない、社会生活との融和を図る。

(2) 国の総合物流システムの施策を行政と連携して対応し、物流拠点を誘致することは、市内の産業を活性化し、同時に雇用の増大が図られる。また、新しい総合物流システムの構築は、裾野が広く技術的な頂きも高い事から、新規産業の創出が期待できる。

(3) 相模原市は、地勢的・立地的環境、産業基盤の資源及び交通の要諦として、従来の東名、中央道に加え、首都圏中央連絡道(計画線)の建設計画も推進され、物流拠点として最適の場所に位置している。また、都市圏の大消費地と産業集積地を擁しているため、総合的な観点からも物流拠点として最適環境にある。

本内容は、これらの視点に立って市内の産業振興と新しい物流拠点についてまとめたものである。

第1章 目的と検討の内容

1.1 背景

今日、わが国の社会システム、産業構造システムは大きな変革が推進されている。この変革は、わが国のみならず世界的な変革の潮流であり、先進国はその基盤整備を行っている。経済ブロック圏のEU連合体、東南アジア経済圏、リーディングのアメリカ・カナダ経済圏と大きく3極経済圏の構造化が形成されつつある。経済圏の形成は産業技術を核とする国際経済の競争激化の中で、そのベースとなる国内の基盤整備として、教育、情報ネットワークシステムなど社会システムの変革と再構築が要求されている。これに伴い、社会規範の変化は国際的な視野に立脚した理解の醸造など意識の変革も要求されている。産業経済の変革は時間の経過と共に、その波は、社会システムのあらゆる分野に波及し、適応と対応の変革が望まれている。しかし、このような国際的視点で捉えた変革に対し、わが国の社会システムは今だ十分な認識と適応への実行プログラムが形成されていない。わが国では、産業経済活動の低迷からいまなを再生されず、むしろ、国内産業は選択の決断を迫られている。すなわち、グローバル化する産業構造に対応して立地環境の良い海外生産拠点の構築をはかるか、国内でのイニシアチブ化の選択である。いずれも、リスクはあるものの将来的には選択せざるをえない状況になると考える。 

わが国の技術商品を核とする輸出型産業が、東南アジアの追いこみでさほどの技術的優位が維持できなくなっている現状や、わが国の技術教育の低下と技術修学人口の低下から、再び技術立国の産業構造をとり戻すのがかなり困難になっていることなどを思慮すると、中小産業界において産業構造の変革は国内向けに適応した産業活動に留まる可能性もある。この傾向は、発展的な産業の再生ではなく、ユーザが国内の消費者であり市場規模は小さい。

わが国では、国債、地方債の発行が630兆円にも達し、なおかつ高齢化、少子化が進展しており、加えて、地方分権化による国税の配分の減少は地方自治体の財政の縮小、税収の収支バランスが大きく崩れる懸念など様々な課題を有している。こうした現状を見ると地域の社会システムとして産業の構造変革を検討する必要がある。今日の変革は行政のみの施策で解決するものではなく、また、民間産業界のみの経済活動で解決できる課題でもないことを相互に認識して、連携した変革のプログラムを構築し、実行する必要がある。

1.2 目的

21世紀に向けて相模原市の産業が活力ある産業振興を今以上に継続、拡大するには、国内はもとより世界的な産業構造改革の変化を見据えて、第1段階は、相模原市がその中でどのような位置付け・役割を担うかを認識することである。第2段階は、この位置付けにおいて相模原市の産業が適応する基盤とシステムを構築すること。第3段階は、相模原市内の産業界が市民生活と混在した環境の改善のために、住み良い街づくりとの関係において産業立地の再構成を行う。この第3段階は、市民生活と産業振興は、一体不可分のシステムとして捉え、これらが調和の取れた相模原市を形成することが21世紀の産業界の課題でもある。

本内容は、これらの課題を解決するインセンティブとして、国が推進している総合物流システム拠点の構築を相模原市に誘致することが目的である。

すなわち、国際的な産業経済における物流拠点は、国内産業の国際的な物流の窓口としての重要な役割を担うことになり、第1段階の目論みに合致する。また、相模原市に物流拠点が形成されることにより、相模原市の多くの産業が参画することになり、加えて、市内の産業立地の再構成も可能となる。これにより相模原市の産業構造の変革を果たしつつ産業の活性化と新規産業の創出を図り、また、その大きな波及効果として住環境と混在した産業の再配置、生活道路と産業道路の融和など社会基盤整備のトリガーとして期待される。本内容は、以上の目論みを目的とし、行政と市内の産業界が連携して地域社会の分権化にも適応した、地域の再構成を行うことを目的とする。

1.3 検討の枠組みと内容

本検討の枠組みは、第1章において産業構造改革に至った背景を基に国が進めている物流システムの新たな枠組みと、そのシステムについて分析する。国が進めている新しい物流システムの枠組みにおける形態の中から、相模原市に構築するのに好適なシステムとして「地域間物流システムの拠点」を選択した背景について抽出する。

第2章において、相模原市の物流形態の特質、相模原市の地勢的立地環境などを詳細に分析し、相模原市の地域間物流拠点を立地、交通の要諦としての人的交通アクセス、道路網を分析し、地域間物流システム拠点の特質を明確化する。

第3章では、地域間物流拠点の概略的なグランドデザインと地域間物流システムの拠点が具備すべきシステムについて分析し、このシステムを構築する上での課題を分析する。

第4章は、地域間物流システムを構築する上で様々な課題が発生すると考えられる。新規システム上の運用、技術課題、組織などについて分析すると共に、行政の担う検討課題と産業界が担う課題の概略について列挙した。

本システムを構築する上で留意することは、相模原市内の産業が主体となって構築することが肝要であり、今後、様々な産業の連携と共に、行政の連携が必須の要件となる。

本分析の枠組みは以下のように構成される。

第2章 物流システムから総合物流システムへ

2.1 背景

(1)グローバルな変革

世界的な市場開放の流れは、本格的に始まったインターネットを期に世界的な産業構造の変革をもたらしている。この新しい変革に対して、わが国の産業構造の環境を考えると、とりわけ、産業の骨幹とも言える物流システムについては統合的かつ総合的な見地に乏しいのが現状ではなかろうか。

わが国産業の国際競争力を高めるためには、製造業の構造改革はもとより総合的な物流システムの構造改革が急務な課題と位置付けられる。物流改革の方向は情報通信システムを駆使し、入出荷の上流システム、すなわち港湾・空港での荷受け、荷捌きの情報管理とその自動化。中流過程と位置付けた、上流過程からの入出荷を地域間に配送する荷受け・荷捌きシステム。下流過程と位置付けた都市内の配送・集配システム。これらが情報化の下に物がよどみなく流れるシステムの構築が必要である。この結果、物流コストの低減に反映し国際競争力の強化に寄与することとなる。

物流システムについて政府施策の「総合物流大綱」(1997.4)、「規制緩和3ヵ年計画」(1998.3)などでは、国際的な競争力の維持・発展には、物流システムの改革が重要との認識に基づく各種報告書により、以下の基盤整備が今後進められる。

  • ①国際物流システム
  • ②地域間物流システム
  • ③都市内物流システム

の3つの柱から構成されている。

物流大綱を受けて、関東運輸局では「関東圏物流拠点整備ビジョン」を策定し、物流拠点を5つの類型に分類し重点的に整備を推進するビジョンを挙げている。

・流通効率化対応型物流拠点

これは産業界の物流諸活動の一元化、多荷主貨物の効率的な処理の配送センターと倉庫施設からなる拠点としている。これは上述の③に相当する都市内物流に分類される物流拠点である。

食料備蓄・流通型物流拠点生鮮食料品、米の備蓄などの低温機能を有する施設を中心とする拠点で社会生活と密接に係わる物流拠点で、上述の③に示した都市内物流システムに分類される。

・共同輸配送物流拠点

商業業務集積地における交通渋滞の緩和を目的とした共同物流拠点施設で多頻度小輸送を対象とした物流拠点で、上述の③に示した都市内物流システムに分類される。

・広域物流拠点(モーダルシフト拠点型ターミナル拠点)

幹線輸送における大量かつ効率的な物流拠点で内航海運、鉄道貨物、トラックなどの中継を円滑にするための物流拠点で、コンテナの取り扱いを特に重要視したもので上述の②に分類される地域間物流システムに分類される。

  • ・幹線トラック輸送に対応したトラックターミナル

トラック輸送の協同化、幹線トラック輸送と地域内トラック輸送との中継を円滑にすることを目的とした物流トラックターミナルで、特に大型トラックを主目的にした設備を要し、上述の②に適応する地域間物流システムに分類される。

  • ・輸入対応型物流拠点

コンテナを中心とした製品・貨物等の輸入の拡大に対応した総合輸入ターミナル拠点設備で、上述の①国際物流システムに分類される。

総合物流大綱のシステムと運輸省の物流システムとの関係を図示すると下図のように表わされる。

総合物流大綱と関東運輸局が策定した具体的な物流拠点の関係

丸で囲ったシステムは、閣議決定の区分けを示し、楕円で囲ったシステムは関東運輸局の区分けで、より詳細に具体的な施策となっている。相模原市における物流システムは、大都市消費地および広域多摩圏の産業製品集積地の輸出入を考えると、都市内物流システムと地域間物流システムの2つの構築に好適地と考えられる。国が推進している物流システムは、総合物流システムとして、それぞれのシステムが水の流れるように連携して、よどみなく物の流れがスムースであることを意図している。そこで、相模原市では、都市内物流システムと地域間物流システムの両輪を構築することで、より効果は大きいと考える。よって、ここでは地域間物流システムの構築を検討することとする。

(2)相模原市の変革

平成9年4月4日に国は「総合物流施策大綱」を閣議決定し本格的な物流システムの変革に着手し、様々な試みを開始している。その及ぼす影響は大きく、また、国家的なプロジェクトとして道路整備、港湾整備、情報基盤整備、立地整備など多くの課題が明らかになった。その内容では、地域間物流システムが中核的な位置付けにある。すなわち、上流の港湾、空港貨物を日本各地に配送する地域間物流は、これまで渾然一体として機能していたが、ここに独立化した拠点を形成することで、市街地物流と港湾・空港との仲立ちをする地域間物流システムは、物の流れとして効率化が図られると共に低コスト化と迅速化が期待できる。 このような地域間物流拠点は、港湾・空港に近く、産業集積地に隣接し、かつ、地域間交通の道路、高速道に近接し、地勢環境とそれを支える産業立地環境が必須条件と考える。このような必須条件を考えると相模原市の立地環境および産業集積環境はまさに好適地であることがわかる。

相模原市の産業界は、21世紀に向けた新しい産業の創出と産業活性化を果たすための自助努力を行なってはいるが、新しいインセンティブによる変革が必要な段階に来ている。5つの工業団地は従前の産業に適応したシステムであり、個々に持てる産業要素の結集化と新しい技術の吸収を行ないつつ変革を目指す必要がある。

総合物流システムにおける地域間物流拠点の構築は、裾野の広い産業の参加と頂きの高い技術で構成されることになる。相模原市の産業界の多くの技術が利活用可能な資源を相模原市は有しており、市内の産業の活性化と拡張は図り知れない効果が期待されるものであろう。

(1)地場産業の物流形態

2.2 相模原市の物流形態

地場産業の物流としては、非常に脆弱な状態にあるのが現状である。相模原市の物流産業の出発が工業団地の製品を輸送する形態から発展し、また、大手産業界運輸部などの下請けの形態で発展してきた。その後アウトソーシングにおいてもご用達方式による安定が続き、物流産業界の大規模な投資努力に対応した新しい展開と適応が不充分であったことは否めない。

物流の近代化はこの15年で大きく変貌したが、その主流はロジスティクセンター化による集約化で物流シェアを拡大してきた経緯が大きく、それは大手のロジスティクセンターと補助拠点センターを全国的に張り巡らすことによる、物流のシェアの集中である。そのシステムは下図に示す形態で産業界と物流業との一体化システムである。この状態では中小の物流業においては当然の成り行きとしてかなり下位に位置した状況にならざるを得ない状態となる。

図に示したように、最近の物流システムは巨大化の方向に向かい、大きな投資によるシステム化が進展し、地場産業が太刀打ちできる環境からはほど遠い。立ち遅れた相模原市の物流地場産業は、構造改革を緊急に迫られている現状にあり、新しい物流システムの構築が必要な時を迎えている。このためには、総合物流システムのインセンティブをてこに構造改革を推進することが相模原市の物流産業界の課題である。

(2)物流大手の進出

今、相模原市の物流業では何が起こっているか。相模原市の地勢的な交通の要諦および地震にも強い良好な地盤特性から、大手物流業および物流センターの拠点の計画や建設が活発に行なわれている。このことは、相模原市の環境が物流業の拠点として好適地であることを裏付けていると推察することができる。

今、大手物流産業界では、相模原市への投資が盛んに行なわれている。これら大手は「ロジスティクシステム」として物流の構造改革を行ない、その拠点として国道16号線およびその他の幹線道路沿いに戦略に基づいた大規模な拠点建設を行っている。

しかし、これらの立地には市民生活環境上、また、相模原市の産業界が望む産業と住環境の混在を再配置または再構成したいと願うシステムにはほど遠く、産業の「影」の部分である騒音、交通渋滞を招きかねないことが懸念されている。

また、ほとんどの場合が都市内物流拠点として活動するところから、その目的を考えると、都市内物流拠点のシステム構成を現状のロジスティクセンターの延長線上として捉えたシステムが、上位の地域間物流システムとどのような連携でシェア分担と作業分担をするのか不明確な状況で推進されるため、総合的な資源配分として効率的であるとは言えない。下表に通産省の調査による物流の立地候補地について示した。 図に示すように、物流拠点としての地勢的な好環境から、相模原市は好適地として認めるところである。関東圏の物流拠点設備について関東運輸局の調査を整理すると、相模原市を中心とした近県での立地好適地の調査結果は次頁の図に示す。

● :行政計画のある地域  ○ :立地特性に適合する地域

総合的に見た物流拠点設備 関東運輸局が選定した立地が望ましい地域

2.3 相模原市の物流立地環境

(1)地震に強い相模原市

神奈川県は、伊豆沖の地震多発地帯からも近く、また、東京中心からも近い関係にある。しかし、過去において相模原市は関東大震災時にも地震の被害は少なく、これまでの地震災害時にも被害が少ない。相模原市は、厚い関東ローム層の大地に形成されており、この厚い関東ローム層が一種の地盤緩衝の役目を果たしている。そのため強度の地震の揺れを抑止しているとの指摘もある。このことは、物資の集積地としての物流拠点システムとして、単に商業ベースでの物流拠点の観点からだけではなく、地震災害時における様々な災害物資が地域から集積することを考え、それが安定的にかつ円滑に働く物流拠点としての可能性を有している。物流拠点の役割は、これらのことから社会的責務として立地要因にも考慮されなければならない。下図は、過去の関東地方の地震統計であり、活断層のない相模原市の立地環境は、物流システム拠点として非常に重要な要素を示している。

(2)交通の要諦としての物流拠点の役割

相模原市は、現在も将来も交通の要諦としての位置付けられた立地条件と環境を備えていることには変わりはない。市内の関連産業界は、この環境を利用した産業としての物流拠点を検討する必要があり、新産業の創出にもつながる。物流拠点が産業立地の重要な要素であり、物流拠点の整備は産業の集積地に近接し物流コストの低減効果と高能率化が図られる。

相模原市の交通の要諦としては、以下の事項に特質がある。

① 鉄道交通の充実

JR、新幹線および将来的なリニア新幹線も含め人の動きは鉄道に依存する。最近の交通網の充実は、人のアクセスの多様性と利便性が大きい。また、私鉄の乗り入れや将来の伸延は、都心へのアクセスとして利便性向上が期待される。

② 道路網へのアクセス容易性

相模原市は国道16号線を中心に東名高速道、中央道、湾岸道路とも接続され、将来的には首都圏中央連絡道(計画線)による高速道へのアクセスが可能となる。物流貨物の主流がトラック輸送と考える時、相模原市は、関東地方の産業圏と中部および甲信地方の産業圏、さらに中部・近畿産業圏へつながる場所に位置している。また、都心および広域多摩圏の産業集積地にも位置し、物流拠点としての立地条件と安定的な地盤と後背地の港湾など環境的にも立地の好適地と推察される。相模原市の立地環境は、3つの物流拠点施設に最適である。すなわち、流通効率化対応型物流施設、食糧備蓄・流通施設、モーダルシフト拠点ターミナル施設などである。

(3)相模原市で選択する物流システム

物流システムが大きく変革期を迎えている背景は、産業経済社会が地球規模となったことが考えられる。すなわち、グローバリゼーション化の環境となったためであろう。そこで、国が推進する新しい物流システムを構築することは、市内の物流産業のみならず、他の産業の変革と活性化に非常に良いインセンティブではなかろうか。とりわけ、地域間物流システムは、これまで明確に位置付けられたシステムではなく、総合的な物流システムを考える時には最も必要なシステムと言える。また、相模原市は、国際物流拠点の港湾、空港にも近くモーダルシフト拠点の役割も果せる好適地にあると言える。

これまで検討した事柄から、相模原市で物流システムを選択するには、

  •    ・都市内物流システム
  •    ・地域間物流システム拠点

の2つのシステムを構築することで、新たな産業振興と活性化が期待される。

この2つは連携して大きな効果が上げられる。それぞれのシステムを個々独立して構築した場合、システムが効率的に稼動することは少ない。最終目標がグローバリゼーション化における総合物流システムの構築が必要であることを考えると、将来の物流システムに要求される要件は、産業製品の国際競争力に打ち勝つために側面からのコスト低減を図る手段として物流システムの高能率化によるコストダウンが位置付けられ、国際競争力に打ち勝つ物流コストを形成する必要がある。

国の施策として発表された総合物流施策大綱に示されているシステムは、

  •    ・国際物流システム
  •    ・地域間物流システム
  •    ・都市内物流システム

上記の3項目から構成されているが、同時に社会生活の諸課題と密接な係わりをも解決することを意図している。すなわち、新しい物流システムでは、社会問題となっている道路の騒音や排気ガスの市民生活への悪影響の問題の解決などである。新しい物流システムは、従前の物流システムの一つの構成を個別対応的にシステムの改革をおこなうのではなく、関連する物流システムの上流としての国際物流、下流の都市内物流とを密接に連携し、高能率的に寄与する中間的な物流システムとして地域間物流システムの位置付けが重要な役割を担い、その構築を必要としている。相模原市では、都市内物流拠点と地域間物流拠点の2つのシステムを構築し、これらが連携することにより総合物流システム本来の効果が期待される。これにより、相模原市の物流関連産業に限らず、産業界全体の活性化を果たし、新しい産業構造への変革が期待できる。

第3章 相模原市の地域間物流システム

相模原市では平成10年11月より産業振興ビジョン推進協議会において物流をテーマにした分科会を発足させ検討を行ってきた。物流の効率化には、「地域産業の活性化」と「市民の暮らし、環境」との共存を図り、その最適化を求めることが必要であるとの視点から主に都市内物流について議論がされた。商工会議所においては、都市産業研究会が平成8年8月に発表した「政策提言」の中で、まちづくりの推進体制の一つとして市内における物流拠点の整備を提言し、主に地域間物流システムについて検討を進めている。また、物流関連業界においては、数年来にわたり市内におけるサテライト計画およびロジスティク構想について検討がなされている。ここでは、地域間物流システムを主眼においた構想と課題について検討した。

3.1 物流拠点システムのグランドデザイン地域間物流システムの拠点構築の前提条件として、以下の項目を考慮する。

(1)前提条件1

地域間物流システムは、上流の国際物流拠点の港湾、空港の物流拠点システムと都市内物流拠点システムの要としての位置付け、及び物流情報の平準化の構築。

   このため、

  • ① 上流の国際物流拠点における貨物情報から都市内物流拠点まで物流情報の共通化の構築。
  • ② 物流時間の短縮化を図るため、広域交通網の道路情報システムと連動した輸送車両等の運行システムの構築。
  • ③ 物流時間短縮のための荷捌きシステムのロボット化さらに物流拠点システムの構築。

(2)前提条件2

① 相模原市の長期産業振興計画としての位置付けの必要性

相模原市の長期的な産業振興計画として、物流産業の振興計画を確立し、市保有地の利用および候補地の再開発事業の取組みが必要となる。このような行政の再開発事業環境を踏まえて、国への誘致を積極的に働きかける。

② 国の出先機関の新設

国際物流拠点からの大型コンテナーおよび輸出用の大型コンテナーの荷捌きおよび税関関連の出張所など、国の出先機関をも誘致し、港湾と連携した税関業務を行うことにより、貨物の滞貨時間の短縮化を図る。

③ 民間産業界の役割

民間産業界においては、地域間物流と都市内物流との連携による将来的 な経済効果について検討すると共に、産業界のコンソーシアム(連合体の形成)を図り、この種の産業の創生の拠点化を目指し、幅広い連携を推進し事業主体の役割を形成する。

(3)地域間物流拠点システム構築

物流コストを現状の行き過ぎた過当競争原理下でコスト低減を目指すのではなく、情報システムおよびFAシステムの応用による省力化で達成するシステムを目指す必要がある。

物流システムを総体的なシステムを統合して捉えることにより、システム間の効率とそこに発生するコストを低減することが、物流コストの大きな低減要素である。

図3.1 物流大綱で言われる物流拠点間の関係

図3.1に示すように、地域間物流システムは、国際物流システム(上流システム)と都市内物流システム(下流システム)の中心と位置付けられる。今日の物流システムの構造変革が進展しない原因の解決は、第1に貨物の情報化の統合が図られていないことに加えて、①それぞれの上下システムと貨物の地域への荷捌き業務、②地域間物流拠点からの貨物の都市内物流拠点への地域別の荷捌き業務、③工場などの国際物流貨物のピッキングと国別荷捌き業務、④物流管理の情報システム管理と運用の4つの業務から構成される。これをシステム構成毎にまとめると①情報システム、②拠点のロジスティクロボットシステム、③拠点内の支援システムとなる。

国際物流を後背地に擁する相模原市の地域間物流拠点システムとして、以下のような前提条件の基で検討する。

① 国際物流拠点は、港湾、空港に構築しない。

  • ・国際物流の港湾、空港は市街地と隣接し産業活動や生活道路としての道路を優先させることから交通渋滞の原因となり、近接の国際物流拠点構築には、課題が多いので部分的に分担する。
  • ・国際物流では大型コンテナーなどからの大量の荷受けと荷捌きを同時に行ない、しかも迅速な荷受けと出荷が要求される。これらを同時に行なう拠点は広い面積が今以上に必要となる。これらのことを考慮すると、港湾、空港近辺に確保する土地およびそのための基盤整備は効率的ではないと考えられるのでその一部分を分担する。

② 港湾、空港に入出荷する国際物流システムは、貨物、コンテナなどの高能率化されたヤード機能の基盤整備に力点を置いたシステムとし、地域間物流拠点との連携化を効率向上の観点とコスト低減の観点からその一部分を分担する。

・わが国の国際物流のネックは、船舶の港湾への停泊時間を要することが指摘されている。今後予想される大型コンテナが恒常化した場合、荷受け量の増大が一層、停泊時間の増大となる。入出荷のスピードアップを図ることを目論む。

③ 国内、国外のパレッタイズの標準化されたシステムとする。

  • ・荷捌きのスピードアップ化を図るため、標準化されたパレッタイズシステムを目論む。

④ 入出荷は自動荷捌きシステムとし、荷捌きのスピードアップ化に留意する。

  • ・荷捌きの荷分けのスピードアップ化を図るため、荷捌きの自動ロボット化を目論む。

⑤ 貨物の認識は情報化システムを利用する。

⑥ 走行中の車両への情報システムを導入する。

  • ・運行管理、貨物管理、地域間の情報の早期取得など情報化システムを目論む。
  • ・情報化システムは、上流の国際物流、下流の都市内物流との標準化を図るが、相互の情報取得システムを構築することを目論む。

 以上のような前提条件での地域間物流拠点を大きく業務分類すると3つのシステムが構成される。

(4)情報システム

情報システムは、高能率化を図る上で重要な位置付けにある。対象とする貨物やトラックは動的な環境にあり、耐えずその動きを把握する必要がある。情報には様々な内容が含まれるが以下の情報は不可欠であろう。

  • ・荷物内容の情報化
  • ・ユニットパレッタイズの情報化
  • ・道路情報(ITS)
  • ・トラック等の運行管理情報
  • ・拠点間の配送計画情報
  • ・事務管理情報(EDI)

これらの情報は中核的な情報管制センターを持ち、とりわけ、移動中のトラック及び拠点間の情報を2つの衛星を用いて車両の位置を測量するシステム、すなわち、DGPS(デファレンシャル グランド ポシショニング システム)や衛星通信網を利用した、双方向性を有する配送システムを確立することが望ましい。これにより拠点間の配送と帰り車両の配送運行計画が確立されれば、コスト低減と高能率化に寄与することが期待される。

また、貨物や荷物の情報管理は、自動荷分けシステムにおいてなくてはならない情報であり、情報機器の新規開発も含めて情報システムの確立は物流システムの要となろう。

(5)拠点のロジスティクロボットシステム 

ロジスティクロボットシステムは物流拠点(センター)の中核的な設備である。ここでは、コスト低減の観点から省力化を果たすことが重要で、自動荷分けなど様々なシステムで自動化を図る必要がある。また、この種の拠点施設は24時間稼動を原則とし365日稼動が望ましいことから、自動化は必須条件となろう。しかし、物流作業における多種多様な荷物や貨物のピッキング作業は、必ずしも自動化が出来ないものもある。また、ピッキングなど人的作業の要素が多いこともあり、そのための道具や半自動ロボット化システムの構成を検討する必要がある。物流拠点のもう一つの問題は、配送トラックの時間集中化への対応で、航空機の発着ヤードの如く、施設にトラックが横付け方式から、次頁の図のようにノーズ方式の考え方の拠点構成とした高能率化の方法について検討する必要もある。

トラックの入庫、出庫形態の流れ(航空ターミナル方式)

物流拠点のシステム構成でシステム課題および要素技術課題に検討を要するシステムは以下のとおりであろう。

  • ・パレッタイズシステム
  • ・大規模自動荷分けロボットシステム
  • ・入荷自動荷分けロボットシステム
  • ・出荷自動荷分けロボットシステム
  • ・自動ピッキングロボットシステム
  • ・手動ピッキングシステム

(6)拠点内の支援システム

物流システムを円滑に、効率良く行なうには、情報と施設内のシステムで関連する標準化や運用時の支援システムが潤滑剤的な役割を果たさなければ、効率的な運用が期待できない。支援システムは広範囲の課題が含まれ、物流システム自体の課題はもとより社会生活への影響も分析検討することが必要である。このようなミッションを持つシステムには、以下の課題について検討する必要がある。

  • ・ユニットパレッタイズの保守システム
  • ・ピッキングシステム管理
  • ・大規模自動荷分けロボット支援システム
  • ・情報支援システム
  • ・標準化システム
  • ・ピッキングシステム研究
  • ・社会的影響の分析システム

(7)システムのイメージ

ここでは、中心的な役割を果たすのが情報システムと連携した拠点の設備である。イメージ的なシステムは、貨物を乗客、輸送車両を航空機と位置付け、輸送車両と貨物が一体となった管制システムで、あたかも航空管制業務的に類似したシステムを形成する。拠点の設備は、ロジスティクロボットシステムの施設として下図に示す従来の事例のように、立体的な自動搬送システムからなる様々な装置から構成される。ロジスティクロボットシステムは、荷捌きを自動化した大規模なロボットシステムで、自動化が有効に作動するには、標準化されたユニットパレッタイズシステムが不可欠の要件となる。 すなわち、混載された荷物を目的地別に分別し再構成された荷物をパレッタイズ化し、結合組み合わせてトラックに積載する工程をロボット化するシステムを構成する。

搬入・搬送システムの事例(物流技術戦略:田中信博著)
自動化の難しい荷物の手動クリッピング作業の事例(物流技術戦略:田中信博著)

この過程で入荷貨物、出荷貨物はピッキングを必要とするものもある。また、システムの高能率な稼動を支援するシステムは、情報、ピッキングなどの標準化などが重要な役割となる。トラックに積載する場合においても事例に示すように専用ロボット機が出来るだけ手動を助ける機器の開発が求められる。各産業界共通の最適なパレッタイズ化の開発により全自動化も期待できる。

トラックに搭載する貨物の専用ロボット機器の事例(物流技術戦略:田中信博著)

目的地ごとに荷分けされた荷物のパレットは最終段階で結合され、トラックの規定積載量に応じて一体化構造とし、自動搭載ロボットで積載されるシステム化は能率向上に寄与するシステムであろう。

3.2 地域間物流システム構築の開発課題

(1)情報システムの課題

地域間物流システムをどの様に位置付け、運用し相互に連携する情報システムを構築するかは、難しい問題を含んでいる。主な項目は以下の通り。

  • ・既存情報システムの活用の分析
  • ・情報内容のインターオペラビリティ(システム間の相互運用性)
  • ・各情報システムの情報内容の標準化
  • ・EDI情報システムの取り込み
  • ・ITS情報システムの取り込み
  • ・運行管理情報のシステム(ソフトウェア、ハードウェア)
  • ・情報管理システム(セキュリティなど)

(2)ロジスティクロボットシステム

大規模ロジスティクロボットシステムを構築および運用するためのシステム構築課題では、多機能制御システム構築技術が大きな課題となる。主な項目は以下のとおり。

  • ・最適パレッタイズシステムの考案
  • ・自動荷分けロボットシステム
  • ・自動ピッキングロボットシステム
  • ・ロボットシステム管理

(3)支援システム

本システム全般におよぶ様々な課題を全体システムから見て解決する技術が課題となる。主な項目は以下の通り。

  • 1.パレッタイズシステムの規格
  • 2.ピッキングの規格化
  • 3.情報の標準化
  • 4.自動ロボットの高稼動化

第4章 中間的なまとめ

4.1 総合物流システムにおける地域間物流の検討課題

(1)統合システム化された物流システムの構築

従来の物流システムは、製品製造メーカーと顧客間に位置し、ある意味では顧客化のための競争が激しく、情報も含めて横の連携が希薄であった。効率追求およびコスト追及の観点からシステムの統合化、相互利用型のシステムに対応した物流システムに変革すると共に、新しい環境へ構造改革するためのコンセンサスを形成する必要がある。

(2)中継的な物流拠点の構築の検討課題

従来の小規模で中継的な物流拠点は、民間産業界で行なわれてきているが大規模な物流中継拠点の事例は少ない。そのため、統合的な地域間物流拠点の設備を構築する際、中継拠点としてのニーズを十分調査する必要がある。また、地域間の物流拠点との連携を有するところから、情報および施設内、パレッタイズなど標準化を必要とすることになる。加えて、帰り車の貨物の配車運行計画もジャストタイム化を図る連携システムの強化が必要である。このような先進的システムの基盤整備を行なうには投資と共に、顧客と物流業の構造改革も必要である。このような観点からシステム構築を国、地方自治体および民間を含めて検討する必要がある。

(3)最新の技術取り入れの検討課題

情報システムおよび電子商取引、ITSシステムなど物流システムを取り巻く技術環境は、今後一層向上する。これらの技術を将来利用することによりコスト削減、高能率化が図られる技術も多い。これらの取り入れ方法についても検討課題として考慮する必要がある。

(4)社会的影響のアセスメントの検討課題

相模原市に構築する地域間物流拠点のシステムは、住環境の中に混在する産業を再構成し、市民生活に対して産業が「影」の部分を発生させないことが重要である。このため、今日、市民生活において社会問題となっている諸課題、すなわち、生活環境問題(渋滞、排気ガスなどの環境、騒音問題など)、産業環境問題(物流拠点の梱包、ピッキングのシステムや材料および無梱包化の検討など)を産業の構造改革と共に変革することが必要である。このため、社会生活への配慮と、将来を見据えたアセスメントを相模原市条例とするほどの検討努力が必要と考える。

(5)地域間物流拠点の構築と市内産業の係わりの課題

相模原市に立地した場合、市内の物流事業および関連産業界が活性化すると共に、新規産業創出が必須条件である。そのため、地域間物流拠点の構築と市内産業がどの様にかかわるのか検討する必要がある。情報システムは電子機器産業との連携のもとに様々なインターフェースを開発、製品化をする必要があり、この分野の産業の活性化、雇用の増大が期待される。ロジスティクロボットシステムは機械加工業、電子制御、運輸機械、ソフトウェアなど裾野の広い産業の関与がなければならない。また、パレッタイズ化は高能率化、産業廃棄物を抑止する効果もあり、新しいシステムのパレッタイズの開発と製品化の供給が必要となる。物流拠点システムの運用は、多くの雇用が発生すると見込まれる。また、運用を支援するシステムの標準化や物流統計とその経済効果などの分析検討には大学との連携によるシステムの高能率化を絶え間なく検討することも必要となる。地域間物流拠点の構築は、幅広い産業を参加させ、雇用を増大させると共に、商業者への波及効果もあり、魅力的なシステムと考える。

(6)システム運用の検討課題

地域間物流拠点の構築において、システムは24時間稼動することになると共に、情報の管理など業界内の情報秘匿など様々な問題が想定される。システムの運用は、行政と市内産業界などを中心とした運用方式が望ましいが、運用体制システムには多くの検討課題が残る。また、支援システムの範囲も広く、連携・分担を含めた検討が必要である。

4.2 技術課題

統合的な物流中継拠点、すなわち、地域間物流システムをソフトウェアおよびハードウェアの技術的視点から技術検討課題を挙げると以下の項目となる。

(1)情報システム検討課題

物流の共通情報項目、内容の標準化は地域間物流システムを円滑に行なうには必要不可欠である。現在、大手物流センターなどが構築しているシステムの相互利用および情報の互換性は希薄な状況にあると考えられる。統合化し物流コストの低減と高能率化を図るためには、情報の標準化の検討を行なう必要がある。

(2)センター設備の自動化の検討課題

将来予測される海外貨物の荷分けを考慮したセンター設備とその自動化は高能率の観点からシステム検討をする必要がある。

4.3 システム課題の検討

(1)行政の役割

統合的な物流システムとしての拠点は、従来の産業界主体の物流センターの枠を超えた広がりと、充実度を要求される。このためには、市行政として一方で国との連携を行ないつつ、他方では市内産業との連携を行ないつつ、指導的立場として政策的に検討する必要がある。これにより、市内の産業の活性化と構造改革が進展し、また、雇用が増大し21世紀の相模原市に益するための十分なシナリオとそのコンセンサスが必要となる。このためシステムを模擬的に実際に運用した実証実験、すなわち、ヒジビリティスタディの実施を含めて検討する必要があると考える。

(2)産業界の役割

21世紀の産業構造への一つのインセンティブとして捉えたとき、物流システムへの技術参加を意図して検討しなければならない。また、構築後の運用体制システムへの参加を含めて各産業界の連携を形成することも必要となろう。

 本中間報告は、本報告の方向性について概要をまとめたものである。データの不足や検討内容の不足は、途中段階としてご容赦願いたい。しかし、本内容の骨子は、相模原市の産業が直面している構造改革も含めて、21世紀の新しい産業を振興し、もって相模原市の街づくりが21世紀の市民生活と調和を図ってこそ、産業活動があるものと認識している。これらを実現するには、産業構造変革の課題を乗り越えるため、新たなインセンティブを必要としている。 このために市内の産業と行政が連携して当たらねばならないと考える。このインセンティブは地域間物流システムではなかろうか。

 

参考文献

1)田中信博:物流技術戦略、財団法人物流技術センター、1997.12.月17日

2)関東圏物流拠点整備ビジョン:関東運輸局、平成10年3月

 

総合物流施策大綱 (付録2)   省 略

関東物流圏(参考資料)      省 略